救急外来や一般外来で患者様を診察していると、明らかに不自然な外傷を抱えながら、その原因を伏せて受診される方に出会うことがあります。医師の視点から見て、DVの被害者が病院を受診することは、単なる傷の治療以上の三つの大きな意義があります。一つ目は、潜在的な重症化の回避です。DVによる暴行は、外見上の痣以上に内部疾患が隠れていることが少なくありません。例えば、頭部への衝撃による慢性硬膜下血腫や、腹部打撲による内臓損傷などは、数日経ってから急変し、命に関わる事態を招くことがあります。脳神経外科や消化器外科、整形外科といった各専門科の医師が精密な検査を行うことで、命の危険を未然に防ぐことができます。二つ目は、暴力の客観的な証拠化です。DVの問題を法的に解決しようとした際、本人の証言だけでは証拠能力に限界がある場合が多いのが現実です。しかし、受傷直後に医療機関を受診し作成されたカルテや診断書は、医師という第三者が医学的根拠に基づいて作成した公的な記録となります。何科を受診したとしても、医師に「パートナーから暴力を受けた」とはっきりと伝えてください。そうすることで、カルテには「DVの疑い」ではなく「DVによる外傷」として記録が残ります。この一文が、後の保護命令の申し立てや離婚訴訟において、あなたを守る決定的な武器になります。三つ目は、多職種連携による支援の開始です。現代の病院には、医師や看護師だけでなく、医療ソーシャルワーカーや公認心理師、MSWといった専門家が配置されています。DVであることを告げることで、病院は即座に支援チームを立ち上げることができます。例えば、診察後にそのまま警察や配偶者暴力相談支援センター(広域的な支援機関)へ繋いだり、一時的に安全な場所を確保するためのアドバイスを行ったりすることが可能です。もし身体的な傷がない場合でも、精神科や心療内科を受診することは非常に有効です。過呼吸や不眠、パニック症状などは、身体が発している悲鳴であり、精神医学的な介入が必要です。医師はあなたの弱さを責めることは決してありません。私たちは、あなたが再び自分らしく生きるためのパートナーでありたいと願っています。何科に行けばいいのかという形式的な問題よりも、まずは「安全な場所にいるプロフェッショナルに助けを求める」という行動そのものを優先してください。その一歩が、暴力に支配された日常を終わらせるための最大の転換点になるはずです。