私の夫、隆史の背中に、小さなしこりがあることに気づいたのは、結婚して間もない頃でした。最初は1センチにも満たない、ニキビのようなもので、彼自身も全く気にしていませんでした。しかし、5年、10年と時が経つうちに、そのしこりはゆっくりと、しかし確実に成長していきました。気づけば、ゴルフボールほどの大きさにまで膨れ上がり、Tシャツの上からでも、その存在がわかるようになっていました。私は何度も「病院で診てもらったら?」と勧めましたが、彼は「痛くもかゆくもないし、背中だから見えないし、大丈夫だよ」と、全く取り合ってくれませんでした。そんなある日、事件は起こりました。彼がソファの背もたれに強く寄りかかった瞬間、「イテッ!」と声を上げたのです。見ると、しこりの部分が赤く腫れあがり、熱を持っていました。どうやら、圧迫された衝撃で、中で炎症が起きてしまったようでした。その夜、彼はズキズキとした痛みのせいで、なかなか寝付けない様子でした。翌日、私は半ば強引に彼を説得し、近所の皮膚科へ連れて行きました。医師の診断は、やはり「粉瘤」、そして細菌感染を起こした「炎症性粉瘤」でした。医師は、「普段、痛くないからといって放置するのが一番良くないんですよ。こうして炎症を起こすと、治療も大変になりますからね」と、私たちに説明しました。その日は、抗生物質が処方され、数日後に炎症が少し落ち着いてから、溜まった膿を出すための切開処置が行われました。麻酔をしたとはいえ、処置はかなり痛かったようで、彼はすっかり懲りた様子でした。そして、医師から「炎症が完全に治まったら、再発を防ぐために、袋を取り除く手術をしましょう」と勧められ、彼はようやく手術を受けることを決意したのです。数ヶ月後、彼は日帰りの摘出術を受け、長年連れ添った背中の“相棒”と、ようやくお別れすることができました。この一件以来、彼は「体の小さな変化でも、放置はダメだな」と、口癖のように言うようになりました。あの時、勇気を出して病院へ連れて行って、本当によかったと、今でも思っています。

肺炎で微熱、何科を受診する?適切な診療科とは

「肺炎かもしれない」と感じた時、特に症状が微熱や軽い咳だけだと、「こんな症状で病院に行ってもいいのだろうか」「行くとしたら、何科だろう?」と迷ってしまうかもしれません。しかし、肺炎は早期診断・早期治療が非常に重要な病気です。ためらわずに、適切な診療科を受診しましょう。肺炎が疑われる場合に、まず第一に受診すべき診療科は「内科」または「呼吸器内科」です。特に「呼吸器内科」は、肺や気管支といった呼吸器系の病気を専門とするエキスパートです。聴診や、胸部レントゲン、血液検査などを通じて、肺炎の診断を的確に行い、原因となっている病原体に合わせた最適な抗生物質を選択してくれます。咳や痰、息切れといった呼吸器症状が主な場合は、呼吸器内科を受診するのが最も確実です。しかし、近所に呼吸器内科がない場合や、どの専門科に行けばよいか分からない場合は、まず「内科」や「総合診療科」を受診すれば全く問題ありません。一般的な内科でも、肺炎の診断と初期治療は十分可能です。問診で症状を詳しく聞き、聴診で胸の音を確認し、レントゲン検査で肺の状態を評価する、という基本的な診察の流れは同じです。内科医は、肺炎だけでなく、発熱や倦怠感といった全身症状の原因となる様々な病気の可能性を広く考えながら診察してくれます。その上で、より専門的な治療や検査が必要と判断されれば、適切な呼吸器内科へ紹介してくれます。特に、高齢者の方で、食欲不振や元気がないといった、はっきりしない症状がきっかけの場合は、まずはかかりつけの内科医に相談するのが、全身の状態を把握してもらう上で最も良い選択です。子供の場合、特に乳幼児は、症状の進行が早いことがあるため、咳や発熱、呼吸が苦しそうな様子が見られたら、速やかに「小児科」を受診してください。重要なのは、微熱だからといって自己判断で市販の風邪薬を飲み続け、受診を先延ばしにしないことです。長引く咳や微熱は、体からの重要なサインです。必ず医療機関を受診し、専門家による正しい診断を仰ぎましょう。

風邪と肺炎の違い。微熱と咳が続く時の見分け方

微熱と咳が続く時、多くの人はまず「風邪が長引いているな」と考えるでしょう。確かに、ほとんどの場合はその通りなのですが、中には、より深刻な「肺炎」が隠れている可能性もあります。風邪と肺炎は、どちらも呼吸器の感染症ですが、炎症が起きている場所と、その重症度が大きく異なります。両者を見分けるためのポイントを知っておくことは、適切なタイミングで医療機関を受診するために非常に重要です。まず、炎症の「場所」が違います。一般的に「風邪(かぜ症候群)」は、鼻や喉、気管といった、空気の通り道である「上気道」のウイルス感染による炎症を指します。一方、「肺炎」は、その炎症がさらに奥深く、酸素と二酸化炭素のガス交換を行う重要な臓器である「肺胞(はいほう)」にまで及んだ状態を指します。つまり、肺炎は風邪よりも重い状態と言えます。次に、「症状の期間と経過」に注目しましょう。風邪の症状は、通常であれば1週間程度でピークを越え、自然に回復に向かいます。しかし、肺炎の場合は、症状が2週間以上と長引く傾向があります。微熱や咳が、良くなるどころか、徐々に悪化していくような場合は、肺炎を疑うべきサインです。咳の「質」にも違いが見られます。風邪の咳は、初期はコンコンという乾いた咳でも、次第に痰が絡んだ湿った咳に変化していくことが多いです。一方、肺炎、特に非定型肺炎の場合は、痰の絡まない、しつこい空咳(からぜき)が長く続くのが特徴です。また、肺炎では、「呼吸の苦しさ(呼吸困難)」を伴うことがあります。安静にしていても息切れがする、少し動いただけでも息が上がる、呼吸をすると胸が痛む、といった症状は、風邪ではあまり見られない、肺炎に特徴的な症状です。これらの症状に加え、全身の倦怠感が非常に強い、食欲が全くない、唇や顔色が悪い(チアノーゼ)といった全身状態の悪化が見られる場合も、肺炎の可能性が高まります。まとめると、「症状が2週間以上続く」「しつこい空咳」「息苦しさ」の3点が、風邪と肺炎を見分けるための重要なポイントです。これらのサインに一つでも当てはまる場合は、自己判断せず、必ず内科や呼吸器内科を受診してください。

肺炎の治療。微熱でも抗生物質が必要な理由

「微熱しかないのに、抗生物質を飲む必要があるの?」肺炎と診断された時、特に症状が軽いと、そう疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、肺炎の治療において、たとえ微熱であっても、医師の指示通りに抗生物質を服用することは、確実な治癒と、重症化や合併症を防ぐために、極めて重要です。その理由を正しく理解しておきましょう。まず、肺炎の原因の多くは「細菌」です。肺炎球菌やインフルエンザ菌といった細菌が、肺の中で増殖し、炎症を引き起こします。抗生物質は、この細菌の増殖を抑えたり、殺したりすることで、病気の原因そのものを叩く薬です。ウイルスが原因の一般的な風邪には抗生物質は効きませんが、細菌性の肺炎に対しては、治療の根幹をなす最も重要な薬剤なのです。微熱しか出ていない状態というのは、体の免疫力が何とか細菌の爆発的な増殖を抑え込んでいる、いわば「せめぎ合い」の状態と考えることができます。しかし、体力が落ちたり、他の病気にかかったりすると、このバランスが崩れ、細菌が一気に優勢となり、重症化してしまう危険性があります。抗生物質を服用することは、このせめぎ合いの状態にある体に、強力な援軍を送り込み、細菌を確実に制圧するためのものなのです。また、非定型肺炎の原因となるマイコプラズマやクラミジアといった微生物も、細菌の一種(あるいはそれに近い性質を持つ)であり、専用の抗生物質(マクロライド系やニューキノロン系など)が非常によく効きます。症状が軽いからといって治療を怠ると、咳などの症状が長引き、日常生活に支障をきたす期間が延びてしまいます。さらに、抗生物質による治療が不十分だと、まれに、炎症が肺全体に広がって呼吸不全に陥ったり、菌が血液中に侵入して敗血症という命に関わる状態になったり、あるいは心臓や脳に合併症を引き起こしたりするリスクもあります。処方された抗生物質は、症状が良くなったと感じても、自己判断で中断してはいけません。指示された日数分を最後までしっかりと飲み切ることで、肺の中にいる細菌を完全に叩き、再発や、薬が効きにくくなる「薬剤耐性菌」の出現を防ぐことができます。微熱は、体内で静かな戦いが続いているサイン。その戦いを確実に終わらせるために、抗生物質は不可欠な武器なのです。