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上の子が治ったのに。我が家の手足口病再感染の記録
あれは忘れもしない、去年の夏のことでした。当時四歳だった長男が保育園から手足口病をもらってきたのです。口の中と手足に痛々しい発疹が広がり、高熱も出て数日間は本当に辛そうでした。看病する私もへとへとになりましたが、なんとか乗り切り、ようやく日常が戻ってきた矢先のことです。わずか一年後、今度は当時二歳だった次男が手足口病と診断されました。ああ、またこの季節が来たか、と覚悟を決めていました。長男は去年かかったから免疫があるはず、今回は次男だけの看病で済むだろう。そう高を括っていたのです。しかし、その考えは甘かったとすぐに思い知らされました。次男の発疹が出始めてから三日後、長男が「なんだか体がだるい」と言い出したのです。熱を測ると微熱があり、翌日には手や足の裏にぽつぽつと赤い発疹が現れました。まさか、と思い小児科に駆け込むと、医師から告げられたのは「手足口病ですね」という言葉でした。去年かかったのに、なぜ。頭が真っ白になりました。医師の説明によると、手足口病の原因ウイルスは複数あり、去年かかったウイルスとは違う種類のウイルスに感染したのだろうとのことでした。一度獲得した免疫は、同じ型のウイルスには有効だけれど、別の型には効かない。その事実を、身をもって痛感した瞬間でした。幸い、長男の二度目の症状は前回よりも軽く済みましたが、家族内での感染拡大を防ぐための隔離や消毒は本当に大変でした。この経験を通じて、手足口病の免疫は決して万能ではないということを学びました。一度かかったから大丈夫、という油断は禁物です。毎年違うウイルスが流行する可能性を念頭に置き、季節を問わず感染対策を続けることの大切さを、改めて感じさせられた出来事でした。
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かゆくない発疹と熱はウイルス感染のサインかも
大人が発熱と共に発疹を経験する場合、その多くはウイルス感染が原因です。ウイルスが体内に侵入し、増殖する過程で免疫系が反応し、その結果として発熱や発疹といった症状が現れるのです。かゆみを伴わない発疹を引き起こす代表的なウイルス性疾患には、いくつかの種類があります。まず考えられるのが「麻疹(はしか)」や「風疹(三日ばしか)」です。これらは子どもの病気というイメージが強いですが、ワクチン未接種であったり、抗体が低下したりしている大人が感染すると、子どもより重症化する傾向があります。麻疹は高熱と共に、顔から全身へと広がる融合性の赤い発疹が特徴で、コプリック斑と呼ばれる口の中の白い斑点も診断の手がかりとなります。風疹は、比較的低い熱と、耳の後ろや首のリンパ節の腫れ、そしてピンク色の細かい発疹が全身に現れます。これらの疾患は感染力が非常に強いため、疑わしい場合は必ず事前に医療機関に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。また、「伝染性単核球症」という、主にEBウイルスによって引き起こされる病気も原因の一つです。これは「キス病」とも呼ばれ、唾液を介して感染します。喉の強い痛みや高熱、首のリンパ節の腫れが主な症状ですが、全身に様々なタイプの発疹が出ることがあります。特に、この病気の際に特定の抗菌薬を服用すると、高い確率で薬疹様の皮疹が出現することが知られています。その他にも、突発性発疹の原因であるヒトヘルペスウイルス6型や、エンテロウイルス、アデノウイルスなど、多くのウイルスがかゆみを伴わない発疹の原因となり得ます。これらのウイルス性発疹症は、特効薬がなく対症療法が中心となりますが、正確な診断を受けることで、適切な療養方法の指導を受けたり、周囲への感染拡大を防いだりすることができます。
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細菌感染が原因?熱と発疹に潜む見えない脅威
大人の発熱と発疹の原因として、ウイルス感染や薬疹がよく知られていますが、見過ごしてはならないのが「細菌感染」によるものです。ウイルス感染症とは異なり、細菌感染症の多くは抗菌薬(抗生物質)による治療が有効であり、早期に診断して適切な治療を開始することが重症化を防ぐ鍵となります。かゆみを伴わない発疹と発熱を引き起こす代表的な細菌感染症の一つに、「溶連菌感染症」があります。正式にはA群β溶血性レンサ球菌という細菌による感染症で、主に喉の痛みや高熱が特徴ですが、時に「猩紅熱(しょうこうねつ)」と呼ばれる全身性の発疹を伴うことがあります。この発疹は、細かい点状の赤い発疹が密集して現れ、触ると紙やすりのようにザラザラしているのが特徴です。主に体や首、手足に見られますが、かゆみは軽いか、全くない場合が多いです。治療が遅れると、急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった深刻な合併症を引き起こすリスクがあるため、迅速な診断と抗菌薬治療が不可欠です。また、自然界に潜む細菌が原因となるケースもあります。例えば、ダニの一種であるツツガムシに刺されることで感染する「つつが虫病」や、マダニに刺されることで感染する「日本紅斑熱」などのリケッチア感染症です。これらの病気では、高熱とともに体幹部を中心に赤い発疹が現れます。特徴的なのは、ダニの「刺し口」が見つかることで、これが診断の重要な手がかりとなります。これらの感染症は、山林や草むら、畑仕事など、自然環境での活動後に発症することが多いです。もし、そのような活動歴の後に原因不明の発熱と発疹が出た場合は、必ずそのことを医師に伝える必要があります。これらの細菌感染症は、時に重篤な経過をたどることもあります。ウイルス感染と決めつけず、細菌感染の可能性も視野に入れて医療機関を受診することが大切です。
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手足口病に何度もかかるのはなぜ?免疫の仕組みを解説
夏になると子どもの間で流行する手足口病。一度かかったからもう安心、と思っている保護者の方も多いのではないでしょうか。しかし、手足口病は一度感染しても、再びかかる可能性がある病気です。その理由は、手足口病の免疫システムが持つ特有の性質にあります。この病気を引き起こす原因ウイルスは一つではなく、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスといった複数の種類が存在しているのです。例えば、ある年にコクサッキーウイルスA6型に感染して手足口病を発症した場合、そのウイルスに対する免疫は獲得できます。しかし、その免疫はA6型に対してのみ有効であり、翌年に別の型であるエンテロウイルス71型が流行すれば、そのウイルスに対しては免疫がないため、再び手足口病にかかってしまう可能性があるのです。これが、手足口病が繰り返し感染する最大の理由です。獲得した免疫は、原因となった特定のウイルスに対しては比較的長く持続すると考えられていますが、全ての型のウイルスをカバーする万能な免疫というわけではありません。そのため、毎年のように流行の主流となるウイルスの型が異なると、過去に感染歴があっても防御できないという事態が起こります。子どもたちが集団生活を送る保育園や幼稚園で毎夏のように流行が繰り返されるのも、このウイルスの多様性が背景にあります。手足口病の免疫について正しく理解することは、適切な予防策を講じ、子どもの健康を守る上で非常に重要です。一度かかったからと油断せず、流行シーズンには手洗いやうがいなどの基本的な感染対策を徹底することが、家族全員をウイルスから守るための鍵となります。
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これは危険!いつもの片頭痛と違う頭痛のサイン
長年片頭痛と付き合っていると、発作の予兆や痛みのパターンがある程度分かってくるものです。そのため、多少の痛みであれば「またいつものか」と自己判断で対処してしまうことも多いでしょう。しかし、その「いつもの頭痛」という思い込みが、命に関わる重大な病気の見逃しに繋がる危険性もはらんでいます。片頭痛とは全く異なる、緊急性の高い危険な頭痛のサインを知っておくことは、自分自身の命を守る上で極めて重要です。まず、最も警戒すべきサインは、「これまでに経験したことのないような、突然の激しい痛み」です。よく「バットで後頭部を殴られたような」と表現される、突発的で激烈な頭痛は、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の典型的な症状です。この場合は一刻を争うため、迷わず救急車を呼ぶ必要があります。次に、頭痛以外の神経症状を伴う場合も非常に危険です。具体的には、「体の片側の手足がしびれる、力が入らない」「ろれつが回らない、言葉が思うように出てこない」「物が二重に見える、視野の片側が見えなくなる」「立っていられないほど激しいめまいがする」といった症状です。これらは脳梗塞や脳出血といった脳卒中のサインであり、頭痛と共に現れた場合は、すぐに専門的な治療が受けられる脳神経外科のある病院へ向かうべきです。また、発熱を伴う頭痛にも注意が必要です。38度以上の高熱と共に、頭痛がどんどんひどくなる、首の後ろが硬直して曲げにくくなる、意識が朦朧とするといった症状がある場合は、髄膜炎や脳炎といった脳の感染症が疑われます。これもまた緊急性の高い状態です。これらの危険なサインは、片頭痛の前兆として現れる閃輝暗点(ギザギザの光)などとは明らかに性質が異なります。「いつもと違う」「何かおかしい」という直感は、体が発している重要な警告信号です。決して軽視せず、自己判断で様子を見ることは絶対にやめてください。迅速な行動が、後遺症なく回復できるかどうかの分かれ道になることもあるのです。
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事例から学ぶ。喉の違和感で受診すべき科の見分け方
喉の違和感を訴えて来院する患者さんは後を絶ちません。しかし、その原因は多岐にわたり、適切な診療科にたどり着くまでに時間がかかってしまうケースも散見されます。ここでは、いくつかの典型的な事例をもとに、どの診療科を受診すべきかの判断基準を考えてみましょう。まず、40代の男性Aさんのケースです。彼は数週間前から喉の奥に何かが引っかかるような感覚があり、時々声がかすれることもありました。長年の喫煙習慣があり、お酒もよく飲むため、本人はがんを心配していました。彼がまず向かうべきは、間違いなく耳鼻咽喉科です。喉頭がんや咽頭がんのリスク因子があり、声がれという具体的な症状も伴っているため、ファイバースコープによる喉の直接的な観察が必須となります。次に、20代の女性Bさんの事例。彼女はデスクワーク中心で、最近仕事のストレスが強く、食事も不規則になりがちでした。症状は、喉の圧迫感と、時折こみ上げてくる酸っぱい感覚(呑酸)です。この場合、耳鼻咽喉科で異常がないことを確認した上で、消化器内科の受診を検討するのが良いでしょう。ストレスや不規則な食生活は逆流性食道炎の典型的な誘因であり、呑酸という症状は強力な手がかりとなります。最後に、30代の主婦Cさんのケース。彼女は1ヶ月ほど前から喉に球が詰まったような感覚に悩まされていました。しかし、食事を飲み込む時には全く支障がなく、むしろ食事中は症状を忘れていることが多いと言います。耳鼻咽喉科の検査では異常なし。特にストレスを自覚しているわけではありませんが、子育ての疲れを感じています。このようなケースでは、心因性の「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」が疑われます。耳鼻咽喉科医からその可能性を説明され、生活習慣の改善やリラックスを心がけることで症状が軽快することが多いですが、改善しない場合は心療内科や精神科への相談も選択肢となります。このように、喉の違和感という一つの症状でも、それに付随する他の症状や生活背景、リスク因子を総合的に見ることで、より適切な診療科を推測することが可能です。自分の状態を客観的に観察することが、正しい病院選びの第一歩なのです。
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大人の発熱と発疹、かゆみが無い時の受診は何科?
ある日突然、体に熱っぽさを感じ、鏡を見ると見慣れない発疹が広がっている。しかも、不思議とかゆみは全くない。このような症状に見舞われた時、多くの大人は戸惑い、何科を受診すれば良いのか迷ってしまうことでしょう。風邪のような気もするし、皮膚の病気のようにも見える。この「発熱」と「かゆみのない発疹」という組み合わせの症状で、まず最初に考えるべき診療科は「内科」あるいは「皮膚科」です。どちらを受診するかは、症状の強さや特徴によって判断すると良いでしょう。例えば、高熱や強い倦怠感、関節痛、喉の痛みといった全身症状が発疹よりも顕著である場合は、まず内科を受診するのが適切です。ウイルスや細菌による全身性の感染症が原因である可能性が高く、内科医は血液検査などを用いてその原因を特定し、全身状態を管理しながら治療を進めてくれます。一方で、熱は微熱程度で、むしろ発疹の状態が気になる、発疹が特定の部位に集中している、あるいは特徴的な形をしているという場合は、皮膚科が第一選択となります。皮膚科医は発疹そのものを診るプロフェッショナルです。視診やダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いた検査で、発疹の種類を詳細に分析し、診断の手がかりを得ることができます。薬疹(薬によるアレルギー反応)や、特定の皮膚疾患の可能性を判断するのに長けています。実際には、内科と皮膚科は連携が密な領域であり、どちらか一方を受診すれば、必要に応じて適切な科を紹介してもらえます。大切なのは、自己判断で様子を見過ぎないことです。特に大人の発疹は、重大な内臓疾患のサインである可能性もゼロではありません。不安な症状があれば、まずはかかりつけの内科、あるいは近くの皮膚科に相談することから始めましょう。それが、的確な診断と早期治療への最も確実な第一歩となります。