医療Q&Aや掲示板、専門家とのチャット形式コラム

2025年8月
  • 糖尿病予備軍は治る!希望を捨てないで

    知識

    健康診断の結果を見て、医師から「糖尿病予備軍ですね」と告げられた瞬間、頭が真っ白になったという方は少なくないでしょう。糖尿病という言葉の重みから、もう治らない病気にかかってしまったのではないかと、大きな不安に襲われるのも無理はありません。しかし、ここで知っておいていただきたいのは、糖尿病予備軍は決して絶望的な状態ではないということです。むしろ、本格的な糖尿病への進行を防ぐための、最後のチャンスを与えられたと捉えるべきなのです。そもそも「糖尿病予備軍」とは、血糖値が正常な範囲よりは高いものの、糖尿病と診断されるほどの数値ではない、いわばグレーゾーンの状態を指します。この段階であれば、多くの場合、薬に頼ることなく生活習慣を見直すだけで、血糖値を正常な範囲に戻すことが可能です。つまり、「治った」と言える状態に回復できる可能性が非常に高いのです。この「治る」という言葉は、病気が完全に消え去る「完治」とは少し意味合いが異なります。一度乱れた血糖コントロールの体質が元に戻ったわけではなく、あくまでも食事や運動といった日々の努力によって、血糖値が正常に保たれている状態を指します。しかし、これは非常に大きな前進です。この段階で適切な対策を講じなければ、数年のうちに高い確率で本格的な糖尿病へと移行し、様々な合併症のリスクを抱えることになります。そうなる前に、体が出してくれている警告サインに気づき、行動を起こすことが何よりも重要です。食事の内容を見直し、適度な運動を習慣にし、質の良い睡眠を心がける。こうした基本的な生活改善が、あなたの未来を大きく変える力を持っています。今は不安でいっぱいかもしれませんが、希望を捨てずに、今日からできる小さな一歩を踏み出してみませんか。

  • 脳神経外科と内科、頭痛で選ぶべき科の違い

    医療

    頭痛で病院を探す際、多くの人が「脳神経外科」と「脳神経内科」という、非常によく似た名前の診療科を前にして混乱してしまいます。どちらも「脳神経」とついているため、頭痛を診てくれるのだろうという漠然としたイメージはあっても、その具体的な役割の違いを正確に理解している人は少ないかもしれません。この二つの科の違いを正しく知ることは、自分の症状に合った適切な医療にスムーズにたどり着くための重要な知識となります。まず、「脳神経外科」は、その名の通り「外科」的なアプローチ、つまり手術を主とした治療を行う診療科です。脳腫瘍、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、脳出血、頭部外傷による血腫など、物理的に原因を取り除く必要がある、構造的な異常を扱います。「これまでに経験したことのないような突然の激しい頭痛」や、「手足の麻痺やろれつが回らないといった症状を伴う頭痛」など、命に関わる緊急性の高い状態が疑われる場合に、CTやMRIといった画像検査で迅速に診断し、必要であれば緊急手術を行うのが脳神経外科の大きな役割です。一方で、「脳神経内科(あるいは単に神経内科)」は、「内科」的なアプローチ、つまり薬物治療や生活指導などを中心に、脳や神経の機能的な問題を診療する科です。片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛といった、脳に構造的な異常が見られないにもかかわらず起こる慢性的な頭痛(一次性頭痛)は、まさに脳神経内科の専門分野です。その他にも、てんかん、パーキンソン病、認知症、脳梗塞後の内科的管理なども担当します。したがって、大まかな使い分けとしては、突発的で生命の危険が疑われるような緊急の頭痛は「脳神経外科」、慢性的に繰り返し、生活に支障をきたしている片頭痛などの相談や日常的な管理は「脳神経内科」と考えると分かりやすいでしょう。もちろん、脳神経内科で診察を受けた結果、精密検査が必要と判断されれば脳神経外科に紹介されますし、その逆も然りです。長年の片頭痛に悩んでいる方が、まずは専門的な薬物治療や予防療法を試したいのであれば、脳神経内科が最もふさわしい選択肢となります。

  • その喉の不調、もしかしたら消化器のサインかも

    医療

    長引く喉の違和感で耳鼻咽喉科を受診し、ファイバースコープで詳しく診てもらったにもかかわらず、「特に異常はありません」と診断されるケースは決して少なくありません。喉に明らかなポリープや炎症が見当たらないのに、なぜ不快な症状は続くのでしょうか。このような場合、次に疑うべき可能性の一つが、消化器系の問題、特に「逆流性食道炎」です。逆流性食道炎とは、胃の中で食物を消化するために分泌される強力な酸である胃酸が、食道へと逆流してしまう病気です。通常、胃と食道の間は噴門という筋肉によって固く閉じられていますが、加齢や食生活の乱れ、肥満、ストレスなどによってこの機能が弱まると、胃酸の逆流が起こりやすくなります。胸焼けや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)が典型的な症状ですが、胃酸が喉の近くまで上がってくることで、食道の粘膜だけでなく喉の粘膜にも炎症を引き起こすことがあります。これが、喉の違和感やイガイガ感、咳払い、声がれといった症状の原因となるのです。この状態は「咽喉頭酸逆流症」とも呼ばれます。特に、朝起きた時に喉の不快感が強い、食後に症状が悪化する、横になると咳が出やすいといった特徴がある場合は、逆流性食道炎の可能性がより高まります。もし耳鼻咽喉科で異常なしと言われ、かつ胸焼けなどの消化器症状を伴うのであれば、次に受診すべきは「消化器内科」や「胃腸科」です。問診や、場合によっては胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)によって診断が確定すれば、胃酸の分泌を抑える薬や、生活習慣の改善指導など、原因に直接アプローチする治療を受けることができます。喉の違和感というサインが、実は食道からの危険信号である可能性を念頭に置き、多角的な視点で自身の体と向き合うことが重要です。

  • 私が勇気を出して肛門科を受診した、その一日

    生活

    かれこれ一年以上、私は排便時の出血に悩まされていました。トイレットペーパーに付く、鮮血。便器が真っ赤に染まることもありました。痛みはなかったものの、その光景を見るたびに、「何か悪い病気だったらどうしよう」という不安が、心の隅に黒い影のように広がっていました。インターネットで調べれば調べるほど、「大腸がん」の文字が目に飛び込んできます。しかし、それ以上に私の足を病院から遠ざけていたのが、「肛門科に行くのは恥ずかしい」という、単純で、しかし強力な感情でした。そんな私が、ついに受診を決意したのは、ある日、会社の先輩から「俺も痔で手術したけど、すごく楽になったよ。恥ずかしいのは最初だけだって」と、あっけらかんと打ち明けられたことがきっかけでした。自分だけじゃないんだ。その一言に、私は背中を押されたのです。私が選んだのは、自宅から少し離れた、肛門科を専門とするクリニックでした。ウェブサイトには、プライバシーに配慮した診察を心がけている、と書かれていました。予約の日、私は心臓をバクバクさせながら、クリニックのドアを開けました。待合室は、ごく普通の、清潔な内科のクリニックと何ら変わりません。受付で問診票を書き、しばらく待っていると、名前ではなく、番号で呼ばれました。診察室は、カーテンで細かく仕切られており、医師や看護師さんの顔を直接見ることはありませんでした。診察台の上で、看護師さんに言われるがままに、横向きになって膝を抱える姿勢をとります。下着を少しずらし、お尻の部分だけが出るように、大きなタオルをかけてくれました。医師の優しい声が、カーテンの向こうから聞こえます。「じゃあ、診察しますね。力抜いて楽にしてください」。指による診察と、肛門鏡という小さな器具を使った検査は、少し違和感はありましたが、痛みはほとんどなく、本当にあっという間に終わりました。診察後、再び椅子に座って、医師から説明を受けます。「典型的な内痔核ですね。いわゆる、いぼ痔です。出血はここからですね。がんのような悪いものではないので、安心してください」。その言葉を聞いた瞬間、一年以上も私を縛り付けていた、重い鎖が、ガラガラと音を立てて崩れていくようでした。もっと早く来ればよかった。それが、私の偽らざる感想でした。恥ずかしさという壁の向こうには、安心という、かけがえのない光があったのです。

  • 繰り返す発熱と発疹は内科の病気が隠れている?

    医療

    大人の発熱と発疹というと、多くの場合は一過性のウイルス感染症や薬疹が原因です。これらは適切な対処をすれば、いずれ回復に向かいます。しかし、もしこのような症状が一度だけでなく、何度も繰り返される、あるいは数週間にわたって改善しないという場合は、少し見方を変える必要があります。その背景に、自己免疫疾患、特に「膠原病(こうげんびょう)」と呼ばれる内科系の病気が隠れている可能性があるからです。膠原病とは、本来なら体を守るはずの免疫システムに異常が生じ、誤って自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気の総称です。この病気群には、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚筋炎、血管炎など、様々な種類が含まれます。これらの病気では、免疫の異常な活動によって全身の様々な場所で炎症が起こります。その炎症反応の結果として、原因不明の発熱や、特徴的な皮膚症状(発疹)が現れることが少なくありません。例えば、全身性エリテマトーデスでは、鼻から両頬にかけて蝶が羽を広げたような形の発疹(蝶形紅斑)が出ることが有名ですが、それ以外にも様々なタイプの発疹が見られます。また、皮膚筋炎では、まぶたが腫れぼったく紫色になる発疹(ヘリオトロープ疹)や、手指の関節の外側にできる赤い発疹(ゴットロン徴候)が特徴的です。これらの発疹は、かゆみを伴わないことも多いです。もし、長引く発熱と発疹に加えて、関節の痛みやこわばり、強い倦怠感、筋肉痛、日光に対する過敏さ、口内炎、レイノー現象(手足の指先が白くなる)といった症状が複数当てはまる場合は、膠原病の可能性を疑い、一度「リウマチ・膠原病内科」などの専門科を受診することを強くお勧めします。早期に診断し、適切な治療を開始することが、病気の進行を抑え、長期的な生活の質を維持するために非常に重要となります。

  • 手足口病シーズンを乗り切るための免疫サポート術

    知識

    毎年夏になると流行のピークを迎える手足口病。特効薬やワクチンが存在しないため、感染を防ぐためには日々の予防策と、体の抵抗力を高めておくことが重要になります。手足口病のウイルスに対する直接的な免疫は、一度その型のウイルスに感染することでしか得られませんが、ウイルスに負けない体づくりを意識することで、感染リスクを下げたり、万が一感染しても症状を軽く済ませたりすることが期待できます。いわば、体の基本的な防御力を高めておくということです。まず最も大切なのは、バランスの取れた食事です。特に、免疫細胞の働きをサポートするビタミンCやビタミンA、亜鉛などを意識的に摂取することが推奨されます。緑黄色野菜や果物、肉、魚、大豆製品などを好き嫌いなく食べることが、丈夫な体を作る基本となります。次に重要なのが、質の高い睡眠です。睡眠中には、体の修復や免疫機能を調整するホルモンが分泌されます。特に子どもは成長のためにも十分な睡眠時間が必要です。寝る前のスマートフォンやテレビを控え、リラックスできる環境を整えてあげましょう。そして、適度な運動も免疫力の維持に役立ちます。屋外で体を動かして遊ぶことは、体力向上だけでなく、ストレス発散にも繋がり、心身の健康を保つ上で効果的です。もちろん、手洗いやうがいといった基本的な感染対策は絶対に欠かせません。原因ウイルスは主に飛沫や接触、便を介して感染するため、外出後や食事前、トイレの後の手洗いを徹底する習慣が、ウイルスを体内に侵入させないための最も有効なバリアとなります。特定の食品を食べれば免疫が劇的に上がるというわけではありませんが、こうした日々の地道な積み重ねが、手足口病の流行シーズンを元気に乗り切るための礎となるのです。

  • 繰り返すめまいと吐き気、メニエール病の可能性

    医療

    一度きりの激しいめまいではなく、数ヶ月、あるいは数年にわたって、何度も、めまいと吐き気の発作を繰り返している。そして、その発作の時には、決まって耳鳴りや難聴、耳が詰まったような感じもする。もし、あなたがこのような症状に悩まされているのであれば、それは「メニエール病」のサインかもしれません。メニエール病は、内耳がリンパ液で「水ぶくれ(内リンパ水腫)」の状態になってしまうことで、めまいと聴覚症状の発作を繰り返す、進行性の病気です。その原因はまだ完全には解明されていませんが、ストレスや過労、睡眠不足、気圧の変化などが、発作の引き金になると考えられています。メニエール病の発作は、前触れもなく、突然始まります。まず、片側の耳に「キーン」というような高い音の耳鳴りや、耳が水で詰まったような閉塞感が現れ、聴力も低下します。そして、それに続いて、自分や周りがぐるぐると激しく回転する「回転性めまい」と、強烈な「吐き気・嘔吐」が襲ってきます。この発作は、数十分から、長い場合は半日以上も続くことがあります。発作が治まると、聴力も一旦は回復しますが、発作を何度も繰り返すうちに、聴力は徐々に低下していき、最終的には高度な難聴に至る可能性もある、非常に厄介な病気です。診断は、これらの特徴的な症状の繰り返しを確認することに加え、聴力検査や、体のバランスを調べる平衡機能検査などを行って、総合的に判断されます。専門の診療科は、もちろん「耳鼻咽喉科」です。治療は、まず、発作が起きている急性期には、めまいや吐き気を抑える薬や、ステロイド薬などを用いて、つらい症状を緩和します。そして、発作を予防するための、維持期の治療が非常に重要になります。内耳のリンパ液の圧力を下げるための利尿薬や、内耳の血流を改善する薬などが、長期的に処方されます。しかし、薬物療法以上に大切なのが、「生活習慣の改善」です。メニエール病は、「ストレス病」とも言われるほど、心身のコンディションに大きく左右されます。十分な睡眠をとり、過労を避け、ストレスを上手に発散すること。そして、塩分を控えた、バランスの良い食事を心がけること。これらの地道な努力が、発作の頻度を減らし、病気の進行を食い止めるための、最も根本的な治療となるのです。

  • 四十肩・五十肩と腱板断裂、似ているけど違う肩の痛み

    医療

    四十代、五十代になって、特に何もしていないのに、急に肩が痛くなり、腕が上がらなくなった。多くの人が、これを「ああ、ついに五十肩か」と自己判断してしまいがちです。確かに、「四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)」は、この年代で最も多い肩の痛みの原因です。しかし、それと非常によく似た症状でありながら、原因も治療法も全く異なる、見逃してはならない病気があります。それが「腱板断裂(けんばんだんれつ)」です。この二つを正確に鑑別することが、適切な治療への第一歩となります。まず、「四十肩・五十肩」は、加齢に伴い、肩関節を包む袋(関節包)や、その周辺の組織が、原因不明の炎症を起こし、硬く縮んでしまう(拘縮)病気です。そのため、主な症状は、「痛み」と「可動域制限(腕が上がらない、後ろに回らないなど)」です。特徴的なのは、自分で腕を上げようとしても、あるいは、他の人に腕を上げてもらおうとしても、ある一定の角度以上は、固まってしまって動かない、という点です。炎症が強い時期には、夜間にズキズキと痛む「夜間痛」で、目が覚めてしまうこともあります。一方、「腱板断裂」は、肩を動かすための重要な四つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)の腱が、使いすぎや加齢によって、すり切れて「断裂」してしまった状態です。こちらも、痛みと可動域制限が主な症状ですが、五十肩との決定的な違いがあります。それは、腱板断裂の場合、自分の力では腕を上げることができなくても、他の人に支えてもらえば、意外とスムーズに腕が上がる、という点です。また、腕を上げる途中の、ある特定の角度で、強い痛みや、力が抜けるような感覚(ドロップアームサイン)が現れることも、特徴的なサインです。診断は、整形外科での身体診察と、超音波(エコー)検査やMRI検査によって確定します。治療法も大きく異なり、五十肩は、主にリハビリテーションで、固まった関節の動きを取り戻すことが中心となります。一方、腱板断裂は、断裂の程度や活動レベルによっては、切れてしまった腱を縫い合わせる「手術」が必要となる場合があります。五十肩だと思い込んで、自己流の体操などを続けているうちに、腱板断裂が悪化してしまうケースも少なくありません。症状が長引く場合は、必ず整形外科を受診し、専門家による正確な診断を仰いでください。

  • 私の喉の違和感、たらい回しの末に辿り着いた答え

    医療

    もう半年以上も前のことです。私の喉に、まるで小さな飴玉がずっと張り付いているかのような奇妙な違和感が居座り始めました。飲み込もうとしても消えず、咳払いをしても取れない。痛みはないのですが、四六時中その存在が気になり、仕事にも集中できませんでした。最初に私が向かったのは、会社の近くにある内科クリニックでした。風邪のひきはじめかもしれないと思い、症状を話すと、うがい薬と炎症を抑える薬を処方されました。しかし、一週間経っても症状は一向に改善しません。不安になった私は、次に専門家である耳鼻咽喉科の門を叩きました。そこでは鼻から細いカメラを入れる検査を受け、喉の奥まで念入りに診てもらいました。画面に映し出される自分の喉を見ながら、何か悪いものでも見つかるのではないかと心臓が縮む思いでした。しかし、医師から告げられたのは「とても綺麗ですよ。何も異常はありません」という意外な言葉でした。安心した反面、ではこの不快感の原因は何なのだろうという新たな疑問が湧き上がりました。医師からは、逆流性食道炎の可能性も示唆され、胃酸を抑える薬を試してみることになりました。けれど、その薬も私には効果がありませんでした。その後も、アレルギーを疑ってアレルギー科へ、さらには呼吸器内科へと、まるでドクターショッピングのように病院を渡り歩きました。どの科でも決定的な原因は見つからず、私の心は次第に疲弊していきました。そんな時、ある医師が「ストレスが溜まっていませんか」と優しく問いかけてくれたのです。その一言に、私はハッとしました。確かに当時は仕事のプレッシャーで心身ともに追い詰められていました。その医師の勧めで心療内科を受診したところ、「咽喉頭異常感症」、いわゆるヒステリー球と診断されたのです。ストレスが自律神経を乱し、喉の筋肉を異常に緊張させていたことが原因でした。抗不安薬の服用とカウンセリングを始めると、あれほど頑固だった喉の違和感が、嘘のように少しずつ和らいでいきました。喉の症状で心療内科に行き着くとは夢にも思いませんでしたが、この経験を通じて、心と体がいかに密接に繋がっているかを痛感しました。

  • ウイルスの多様性が手足口病の免疫獲得を難しくする

    医療

    手足口病の予防や治療を考える上で、免疫のメカニズムを理解することは極めて重要です。この感染症が厄介なのは、その原因となるウイルスの種類が非常に多いという点に集約されます。私たちの体は、病原体が侵入すると、それに対抗するための「抗体」という武器を作り出す免疫システムを持っています。一度特定の病原体に対する抗体を作ると、その情報は免疫記憶として残り、次に同じ病原体が侵入してきた際には迅速に攻撃して発症を防ぎます。これが一度かかると二度とかからない、いわゆる終生免疫の仕組みです。しかし、手足口病の場合、この仕組みが単純には機能しません。原因となるのはエンテロウイルス属に属するウイルス群で、その中にはコクサッキーウイルスA群(CA)、B群(CB)、エンテロウイルス(EV)、エコーウイルスなどが含まれ、血清型で分類すると数十種類にも及びます。体が作り出す抗体は、非常に特異性が高く、鍵と鍵穴の関係のように、特定のウイルスの型にしか結合できません。例えば、コクサッキーウイルスA16型(CA16)に感染して免疫を獲得しても、その抗体はエンテロウイルス71型(EV71)には無力です。そのため、異なる型のウイルスが次々と流行することで、人は生涯にわたって何度も手足口病に感染するリスクに晒されることになります。このウイルスの多様性は、有効なワクチン開発を困難にしている大きな要因でもあります。全ての型をカバーする多価ワクチンを開発するには、技術的にもコスト的にも大きなハードルが存在します。現在のところ、私たちは個々の感染を通じて、一つずつウイルスの型に対する免疫を獲得していくしかありません。この地道な免疫獲得のプロセスが、手足口病という感染症との長い付き合いを物語っているのです。