ウイルスの多様性が手足口病の免疫獲得を難しくする
手足口病の予防や治療を考える上で、免疫のメカニズムを理解することは極めて重要です。この感染症が厄介なのは、その原因となるウイルスの種類が非常に多いという点に集約されます。私たちの体は、病原体が侵入すると、それに対抗するための「抗体」という武器を作り出す免疫システムを持っています。一度特定の病原体に対する抗体を作ると、その情報は免疫記憶として残り、次に同じ病原体が侵入してきた際には迅速に攻撃して発症を防ぎます。これが一度かかると二度とかからない、いわゆる終生免疫の仕組みです。しかし、手足口病の場合、この仕組みが単純には機能しません。原因となるのはエンテロウイルス属に属するウイルス群で、その中にはコクサッキーウイルスA群(CA)、B群(CB)、エンテロウイルス(EV)、エコーウイルスなどが含まれ、血清型で分類すると数十種類にも及びます。体が作り出す抗体は、非常に特異性が高く、鍵と鍵穴の関係のように、特定のウイルスの型にしか結合できません。例えば、コクサッキーウイルスA16型(CA16)に感染して免疫を獲得しても、その抗体はエンテロウイルス71型(EV71)には無力です。そのため、異なる型のウイルスが次々と流行することで、人は生涯にわたって何度も手足口病に感染するリスクに晒されることになります。このウイルスの多様性は、有効なワクチン開発を困難にしている大きな要因でもあります。全ての型をカバーする多価ワクチンを開発するには、技術的にもコスト的にも大きなハードルが存在します。現在のところ、私たちは個々の感染を通じて、一つずつウイルスの型に対する免疫を獲得していくしかありません。この地道な免疫獲得のプロセスが、手足口病という感染症との長い付き合いを物語っているのです。