それは、五十二歳の誕生日を迎えた、数週間後のことでした。最初は、右肩に、ほんの少しの違和感があっただけです。しかし、その違和感は、数日のうちに、明確な痛みに変わりました。特に、ジャケットに袖を通そうとしたり、電車のつり革に手を伸ばしたりすると、肩の奥に「ズキン!」と鋭い痛みが走るのです。「これが、噂に聞く五十肩か」。私は、そう軽く考えていました。しかし、本当の苦しみは、夜にやってきました。ベッドに入り、横になると、右肩が、まるで内側からドクドクと脈打つように、ズキズキと痛み始めるのです。痛くない方の左側を下にして寝ても、右肩の重みで痛みが増す。仰向けになっても、腕の置き場に困り、じっとしていられない。あまりの痛みに、寝返りをうつたびに、うめき声を上げて目が覚めてしまう。そんな、眠れない夜が、何日も続きました。昼間は、痛みで仕事に集中できず、夜は、痛みと睡眠不足で、心身ともに疲弊していく。私は、市販の湿布を貼り、痛み止めを飲みましたが、気休めにしかなりません。ついに、観念して、近所の整形外科を受診しました。医師は、私の肩をいくつか動かした後、「典型的な五十肩、肩関節周囲炎の、炎症が一番強い時期ですね。夜、痛いでしょう」と、私の苦しみを見透かしたように言いました。そして、レントゲンで骨に異常がないことを確認した後、「注射を一本打ちましょう。楽になりますよ」と、肩に関節内注射をしてくれました。正直、注射は怖かったですが、その効果はてきめんでした。数日後、あれほど私を苦しめていた、夜中の激痛が、嘘のように和らいでいったのです。それから、週に一度、理学療法士さんのもとで、リハビリテーションが始まりました。固まってしまった肩を、少しずつ、丁寧に動かしていく。痛みは伴いましたが、回を重ねるごとに、腕が上がる角度が広くなっていくのが、実感できました。あの時、痛みを我慢し続けず、勇気を出して病院へ行って、本当によかった。夜、痛みなく眠れるという、当たり前の幸せを、私は今、心から噛みしめています。
私が右肩の激痛で眠れない夜を過ごした話