皮膚の下にできた、コリコリとした粉瘤。特に、中心に黒い点(開口部)が見えると、つい気になって、指で強く押したり、潰したりしたくなる衝動に駆られるかもしれません。しかし、その行為は、百害あって一利なし。粉瘤を悪化させ、激しい痛みや、より大きな傷跡を残す原因となる、最も危険な行為なのです。なぜ、自分で粉瘤を潰してはいけないのでしょうか。その理由は、粉瘤の構造にあります。粉瘤は、皮膚の下にできた「袋」の中に、垢や皮脂といった老廃物が溜まっている状態です。無理に指で圧迫すると、この袋が皮膚の下で破れてしまうことがあります。すると、袋の中に溜まっていた、細菌のエサとなる老廃物や、本来は皮膚の表面にあるべき角質成分が、一気に周囲の組織に撒き散らされてしまいます。体はこれを「異物」とみなし、排除しようと、激しい異物反応、つまり強力な炎症を引き起こします。その結果、これまで痛みもなかった粉瘤が、急に赤くパンパンに腫れあがり、ズキズキとした激痛を伴う「炎症性粉瘤」へと変化してしまうのです。こうなると、すぐに袋を取り除く根治手術はできなくなり、まずは抗生物質を飲んだり、皮膚を切開して膿を出したりといった、炎症を抑えるための治療が長期間必要になります。また、強い炎症が起こった後の皮膚は、硬く、しこりのようになったり、色素沈着を起こしてシミのようになったりして、きれいに治りにくくなります。手術で取り除く際も、周囲の組織との癒着がひどくなり、手術が難しくなったり、切開創が大きくなってしまったりする可能性が高まります。運良く、開口部から中身の一部を押し出すことができたとしても、原因である「袋」そのものが残っている限り、またすぐに老廃物が溜まり、必ず再発します。むしろ、潰すことで細菌が入り込みやすくなり、感染のリスクを高めるだけです。粉瘤は、ニキビとは全くの別物です。その構造を理解し、「自分で何とかしよう」という考えは捨ててください。気になるしこりを見つけたら、触らず、いじらず、そのままの状態で、速やかに皮膚科や形成外科の専門医に相談する。それが、最も安全で、きれいに治すための唯一の正しい道筋なのです。