それは冬の冷え込みが厳しい夜のことでした。突然の激しい胸の痛みに襲われた私は、一歩も動けなくなり、家族が呼んだ救急車で運び込まれました。意識が朦朧とする中で、ストレッチャーが激しく揺れる振動と、救急隊員の方の鋭いやり取りを断片的に覚えています。搬送先に選ばれたのは、自宅から車で二十分ほどの場所にある市の自治体病院でした。自治体病院とは、このような緊急事態において、時間や曜日を問わずに私たちを迎え入れてくれる、文字通りの命の砦なのだということを、私は身をもって知ることになりました。救急センターの入り口をくぐると、そこには昼間の診察室とは全く違う、緊張感に満ちた別世界が広がっていました。医師や看護師の方々が迅速に動き回り、次々とモニターの数値を確認し、的確な処置を施してくれました。あの時、もしこの病院が「夜間だから」とか「採算が合わないから」という理由で救急を受け付けていなかったら、私の命は今ここに無かったかもしれません。自治体病院とは、私たちが普段意識することのない日常の裏側で、静かに、しかし確実に守りを固めてくれている存在です。入院生活の中で気づいたのは、そこには私のような急患だけでなく、複雑な事情を抱えた方や、行き場のない高齢者の方など、多種多様な人々が等しくケアを受けている光景でした。公的な病院だからこそ、どんな立場の人であっても見捨てられることがないという安心感。それがどれほど地域の人々の心の支えになっているかを痛感しました。退院の日、病院の正面玄関から外に出た時に見上げた青空は、格別に美しく感じられました。私たちは、自分が病気にならない限り、自治体病院の存在を当たり前のように考えがちです。しかし、そこにあるのは当たり前の風景ではなく、行政の努力と、そこで働く人々の献身的な労働によって支えられている「奇跡のような安全網」なのです。自治体病院とは何か、その問いに対する私の答えはシンプルです。それは、私たちが安心して眠り、安心して明日を迎えられるための、地域社会の最大の安心の根拠です。この砦をこれからも守り続けていくために、一住民として何ができるのかを、感謝の気持ちと共に考え続けていきたいと思っています。