RSウイルス感染症と聞くと、多くの人が乳幼児がかかる、冬に流行する呼吸器の病気というイメージを抱くでしょう。しかし、このウイルスは決して子供だけのものではありません。大人が感染することも珍しくなく、その場合、しばしば「ただの風邪」として見過ごされがちですが、実は子供とは異なる厄介な症状に悩まされることがあります。大人がRSウイルスに感染した場合、初期症状はごく普通の風邪と非常によく似ています。喉の痛み、鼻水、鼻づまり、そして三十八度前後の発熱などから始まります。そのため、ほとんどの人は「風邪をひいたかな」と思い、市販薬で対処しようとします。しかし、数日経つと、RSウイルスの特徴的な症状が現れ始めます。それが、「しつこい咳」と「多量の痰」です。風邪の咳が比較的乾いたものであることが多いのに対し、大人のRSウイルス感染症では、気管支の奥からこみ上げてくるような、ゴホゴホという湿った咳が続きます。そして、それに伴って、黄色や緑色がかった粘り気の強い痰が大量に出るようになります。この咳と痰の症状が非常にしつこく、熱や喉の痛みが治まった後も、二週間、三週間、あるいはそれ以上も続くことが、この病気の最大の特徴です。特に、もともと喘息の持病がある人や、喫煙者、あるいは心臓や肺に基礎疾患のある人、高齢者などは、症状が重症化しやすく、気管支炎や肺炎へと進行するリスクが高まります。呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴)が聞こえたり、息苦しさを感じたりするような場合は、注意が必要です。大人のRSウイルスは、子供のそれとは異なり、生命に関わるような重篤な状態に至ることは稀ですが、長引く症状によって体力を著しく消耗し、仕事や日常生活に大きな支障をきたします。ただの風邪と侮らず、頑固な湿った咳が続く場合は、一度、呼吸器内科などの専門医に相談することを検討すべきです。
大人がかかるRSウイルスの意外な症状