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痔の予防と再発防止、毎日の生活でできること
つらい痔の症状から解放されても、あるいは、まだ痔になったことがなくても、日々の生活習慣が、お尻の健康を大きく左右します。痔は「生活習慣病」の一つとも言われ、毎日のちょっとした心がけで、その発症や再発のリスクを大幅に減らすことができます。お尻に優しい生活を、今日から始めてみませんか。1.便秘と下痢を防ぐ、食生活の見直し痔の最大の敵は、便通の異常です。便秘で硬い便をいきんで出すのも、下痢で何度も肛門に負担をかけるのも、どちらもNGです。快便の基本は、食物繊維と水分を十分に摂ること。野菜、果物、海藻、きのこ類などを積極的に食事に取り入れ、一日一点五リットル以上の水分をこまめに補給しましょう。ヨーグルトなどの発酵食品で、腸内環境を整える「腸活」も効果的です。また、朝食を抜くと、便意が起こりにくくなるため、一日三食、規則正しく食べることも大切です。2.トイレでのNG習慣をやめる便意を感じたら、我慢せずにすぐにトイレへ行く習慣をつけましょう。そして、トイレに長居するのは禁物です。スマートフォンを持ち込んだり、新聞を読んだりして、五分以上いきみ続けるのは、肛門に過剰な負担をかけ、うっ血を招きます。排便時間は、三分以内が目標です。また、排便後は、トイレットペーパーでゴシゴシこするのではなく、シャワートイレで優しく洗浄するか、濡らしたペーパーで押さえるように拭きましょう。3.体を冷やさない、血行を促進する体の冷えは、肛門周辺の血行を悪化させ、うっ血を助長します。夏場でも、シャワーだけで済ませず、ぬるめのお風呂にゆっくりと浸かり、全身を温めましょう。血行促進は、痔の予防と改善に非常に効果的です。また、長時間同じ姿勢でいることも、うっ血の原因となります。デスクワークや立ち仕事の合間には、軽いストレッチをしたり、少し歩き回ったりして、体を動かすように心がけましょう。4.適度な運動を習慣にするウォーキングやヨガなどの、適度な運動は、腸の動きを活発にし、便秘を解消するだけでなく、全身の血行を良くするため、痔の予防に最適です。特別な運動でなくても、一駅手前で降りて歩く、エスカレーターではなく階段を使う、といった日常の中の工夫で十分です。これらの健康的な生活習慣は、痔の予防だけでなく、全身の健康維持にも繋がります。お尻をいたわる生活は、あなた自身をいたわる生活なのです。
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私が右肩の激痛で眠れない夜を過ごした話
それは、五十二歳の誕生日を迎えた、数週間後のことでした。最初は、右肩に、ほんの少しの違和感があっただけです。しかし、その違和感は、数日のうちに、明確な痛みに変わりました。特に、ジャケットに袖を通そうとしたり、電車のつり革に手を伸ばしたりすると、肩の奥に「ズキン!」と鋭い痛みが走るのです。「これが、噂に聞く五十肩か」。私は、そう軽く考えていました。しかし、本当の苦しみは、夜にやってきました。ベッドに入り、横になると、右肩が、まるで内側からドクドクと脈打つように、ズキズキと痛み始めるのです。痛くない方の左側を下にして寝ても、右肩の重みで痛みが増す。仰向けになっても、腕の置き場に困り、じっとしていられない。あまりの痛みに、寝返りをうつたびに、うめき声を上げて目が覚めてしまう。そんな、眠れない夜が、何日も続きました。昼間は、痛みで仕事に集中できず、夜は、痛みと睡眠不足で、心身ともに疲弊していく。私は、市販の湿布を貼り、痛み止めを飲みましたが、気休めにしかなりません。ついに、観念して、近所の整形外科を受診しました。医師は、私の肩をいくつか動かした後、「典型的な五十肩、肩関節周囲炎の、炎症が一番強い時期ですね。夜、痛いでしょう」と、私の苦しみを見透かしたように言いました。そして、レントゲンで骨に異常がないことを確認した後、「注射を一本打ちましょう。楽になりますよ」と、肩に関節内注射をしてくれました。正直、注射は怖かったですが、その効果はてきめんでした。数日後、あれほど私を苦しめていた、夜中の激痛が、嘘のように和らいでいったのです。それから、週に一度、理学療法士さんのもとで、リハビリテーションが始まりました。固まってしまった肩を、少しずつ、丁寧に動かしていく。痛みは伴いましたが、回を重ねるごとに、腕が上がる角度が広くなっていくのが、実感できました。あの時、痛みを我慢し続けず、勇気を出して病院へ行って、本当によかった。夜、痛みなく眠れるという、当たり前の幸せを、私は今、心から噛みしめています。
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痔の治療、薬で治る?手術が必要?その見極め方
痔と診断された時、多くの人が気になるのが、「自分の痔は、薬で治るのか、それとも手術が必要なのか」ということでしょう。その判断は、痔の種類と、症状の進行度(病期)によって、大きく異なります。まず、薬物療法で十分に改善が見込めるのは、比較的症状の軽い、初期段階の痔です。例えば、「いぼ痔(内痔核)」であれば、排便時に出血するだけで、まだ脱出しない、あるいは脱出しても自然に戻る段階(Ⅰ度・Ⅱ度)であれば、保存的治療が中心となります。炎症や腫れを抑える軟膏や坐薬、出血を止める薬、そして便を柔らかくする緩下剤などを使いながら、食生活や排便習慣の改善といった、生活指導を行います。多くの場合、これらの治療で症状はコントロール可能です。「切れ痔(裂肛)」も、急性期の浅い傷であれば、軟膏や坐薬で痛みを和らげ、便通を整えることで、数日で治癒します。一方、「手術」が検討されるのは、保存的治療ではコントロールが困難な、進行した痔の場合です。いぼ痔(内痔核)で言えば、排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない(Ⅲ度)、あるいは、常に脱出したまま戻らない(Ⅳ度)といった段階になると、日常生活に大きな支障をきたすため、手術が積極的に勧められます。また、いぼ痔からの出血がひどく、貧血が進行している場合も、手術の適応となります。切れ痔(裂肛)も、何度も繰り返して慢性化し、傷が深くなって潰瘍になったり、肛門が狭くなってしまったり(肛門狭窄)した場合には、手術が必要となります。そして、「痔瘻(あな痔)」は、薬で治ることはないため、診断がついた時点で、原則として手術が唯一の根治治療となります。近年では、手術の方法も大きく進歩しています。従来のような、長期の入院が必要な手術だけでなく、日帰りで可能な、体への負担が少ない様々な術式(ALTA療法など)が登場しています。手術が必要と診断されても、過度に恐れる必要はありません。肛門科の専門医とよく相談し、自分の症状とライフスタイルに合った、最適な治療法を選択することが大切です。
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診断されてから半年。私の血糖値が正常に戻るまで
「このままでは糖尿病になりますよ」。健康診断の結果説明で医師から告げられた一言が、私の生活を一変させました。当時45歳、自覚症状は皆無。まさか自分が糖尿病予備軍だとは夢にも思っていませんでした。最初の数日は、ただただショックで何をすればいいのか分かりませんでした。しかし、このままではいけないと一念発起し、私は自分の体と向き合うことを決意しました。まず取り組んだのは、食事記録をつけること。自分が何をどれだけ食べているのかを客観的に見るためです。記録してみて驚きました。無意識に口にしているお菓子やジュースがいかに多いことか。私はまず、その間食を断つことから始めました。次に、毎日の夕食後に30分間のウォーキングを始めました。最初は億劫でしたが、妻も一緒に歩いてくれるようになり、夫婦の会話の時間が増えるという思わぬ副産物が生まれました。食事面では、白米の量を少し減らし、その分野菜をたっぷり摂るように心がけました。三ヶ月が経った頃、体重が3キロほど落ち、体が軽くなっているのを感じました。そして、運命の半年後の血液検査。恐る恐る結果を聞くと、ヘモグロビンA1cの数値は基準値内に下がっていました。「正常に戻りましたね。この生活を続けてください」。医師の言葉に、私は思わずガッツポーズをしてしまいました。決して楽な道のりではありませんでした。飲み会で好きなものを我慢したり、疲れている日にウォーキングに出かけたりするのは辛い時もありました。しかし、日々の小さな努力の積み重ねが、確実に結果に繋がったのです。この経験は、私に健康のありがたさと、自分自身の力で未来は変えられるという自信を与えてくれました。予備軍からの脱出は、ゴールではなく新たなスタートです。この健康な体を維持するため、これからも努力を続けていこうと心に誓っています。
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恥ずかしくない!肛門科の診察、その流れと配慮
「痔の診察は、お尻を見せるのが恥ずかしい…」。この一点が、多くの人を病院から遠ざけている最大の理由でしょう。しかし、心配はいりません。現代の肛門科の診察は、患者さんの羞恥心に最大限配慮した、様々な工夫が凝らされています。その具体的な流れと配慮を知れば、きっと受診へのハードルはぐっと下がるはずです。まず、病院に入ると、問診票を渡されます。ここで、いつから、どんな症状があるのか(出血、痛み、脱出、かゆみなど)、既往歴やアレルギーの有無などを、できるだけ詳しく記入します。この問診票をもとに、診察室で医師からの詳しい質問があります。そして、いよいよ診察です。多くの肛門科クリニックでは、プライバシーが守られた、専用の診察室や処置室が用意されています。診察台は、カーテンで仕切られており、医師や看護師と直接顔を合わせることなく、診察を受けることができます。服装は、下着を少しずらすだけで済むように、ズボンやスカートを膝まで下げる程度です。診察の体位は、横向きに寝て、エビのように膝を軽く抱える「シムス位」という姿勢が一般的です。この姿勢は、お尻が医師の方を向くだけで、他の部分はタオルなどで覆われるため、羞恥心が最も少ない体位とされています。医師は、まず目で見て、肛門の周りの状態(外痔核や皮膚のただれの有無など)を観察する「視診」を行います。次に、潤滑ゼリーをつけた指を、そっと肛門に挿入し、内部の状態や、筋肉の締まり具合などを確認する「指診」を行います。痛みがある場合は、無理に行わないので、遠慮なく伝えましょう。そして、診断を確定させるために、最も重要なのが「肛門鏡検査」です。これは、長さ七~八センチほどの、プラスチック製の筒状の器具(肛門鏡)を肛門に挿入し、内痔核など、直腸下部の状態を直接観察する検査です。これも、数分で終わり、強い痛みはありません。これらの診察は、全て合わせても五分から十分程度です。医師や看護師は、毎日何人もの患者さんの診察を行っているプロフェッショナルです。あなたのことを、特別視したり、笑ったりすることは絶対にありません。むしろ、勇気を出して来てくれたことに、敬意を払ってくれるはずです。恥ずかしさという一時の感情のために、つらい症状を我慢し続ける必要はないのです。
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喉の違和感、最初に訪れるべき診療科は耳鼻咽喉科
喉に何か詰まっているような、イガイガする、あるいは圧迫されるような不快な感覚。風邪のように明確な痛みではないけれど、日常生活で常に気になってしまうこの「喉の違和感」は、多くの人が一度は経験する症状かもしれません。いざ病院へ行こうと思っても、内科なのか、それとも他の科なのか、どこを受診すれば良いのか迷ってしまうのは当然のことです。このような場合、まず最初に検討すべき診療科は「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科は、その名の通り、耳、鼻、そして喉(咽頭・喉頭)を専門とするエキスパートです。喉の違和感という症状は、まさに彼らの専門領域のど真ん中に位置します。なぜ耳鼻咽喉科が第一選択となるのか。それは、専門的な器具を用いて喉の奥を直接観察できるからです。多くの人が想像する、口を大きく開けて舌を抑えて診る診察に加え、耳鼻咽喉科ではファイバースコープという細いカメラを鼻から挿入し、肉眼では見ることのできない喉の奥深く、声帯や食道の入り口まで詳細に観察することが可能です。この検査によって、ポリープや腫瘍、炎症の有無などを正確に診断することができます。内科でも喉の診察は行いますが、こうした専門的な観察はできません。もし違和感の原因が喉に直接的な異常がない場合、例えば逆流性食道炎やストレスなどが考えられる場合でも、まずは耳鼻咽喉科で「喉自体に器質的な問題がない」ことを確認することが、その後の適切な治療への近道となります。最初に専門家による詳細なチェックを受けることで、見当違いの治療を続けたり、重大な病気を見逃したりするリスクを大幅に減らすことができるのです。喉の不快な症状に悩んだら、まずは勇気を出して耳鼻咽喉科の扉を叩いてみてください。それが、不安解消と的確な診断への最も確実な一歩となるでしょう。
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病院へ行く前に試したい。喉の違和感を和らげるセルフケア
喉に軽い違和感を覚えた時、すぐに病院へ行くべきか、少し様子を見るべきか、迷うこともあるでしょう。もちろん、呼吸困難や強い痛みなど、危険なサインがある場合は迷わず受診すべきですが、比較的軽度な症状であれば、日常生活の中でのセルフケアによって改善が期待できる場合も少なくありません。病院を受診する前のステップとして、あるいは治療と並行して、ぜひ試していただきたいケア方法がいくつかあります。まず基本中の基本は、喉を潤すことです。喉の粘膜が乾燥すると、防御機能が低下し、わずかな刺激にも敏感になってしまいます。こまめな水分補給を心がけ、特に空気が乾燥する季節やエアコンの効いた室内では、加湿器を使用するのが非常に効果的です。マスクの着用も、自分の呼気に含まれる湿気で喉の湿度を保つという点で有効です。次に、喉への刺激を避けることも重要です。香辛料の多い刺激的な食べ物や、熱すぎる、あるいは冷たすぎる飲食物は、喉の粘膜に負担をかけます。アルコールの摂取や喫煙は、喉の炎症を悪化させる最大の要因となるため、症状がある間は控えるのが賢明です。また、大声を出したり、長時間話し続けたりすることも喉を酷使するため、意識的に声の休息時間を設けるようにしましょう。逆流性食道炎が疑われる場合は、食生活の見直しが鍵となります。脂っこい食事や甘いもの、カフェインを控え、腹八分目を心がけることが大切です。また、食後すぐに横になると胃酸が逆流しやすくなるため、最低でも2時間は体を起こした状態に保つようにしてください。さらに、見過ごされがちなのがストレスケアです。ストレスは自律神経のバランスを乱し、喉の筋肉を緊張させます。十分な睡眠時間を確保し、軽い運動や趣味の時間を作るなど、自分なりのリラックス方法を見つけて心身の緊張をほぐしてあげましょう。これらのセルフケアを一定期間続けても症状が改善しない、あるいは悪化するようであれば、それは専門家による診断が必要なサインです。その際は、試したケアの内容を医師に伝えることで、よりスムーズな診断に繋がるでしょう。
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片頭痛の初診で役立つ、頭痛ダイアリーの勧め
片頭痛の悩みで初めて病院を訪れる際、多くの人が自分の症状をうまく医師に伝えられるか不安に感じるものです。限られた診察時間の中で、長年の複雑な症状を的確に説明するのは簡単なことではありません。しかし、医師が正確な診断を下し、あなたに最適な治療法を見つけるためには、患者からの情報が何よりも重要な手がかりとなります。そこで、ぜひ実践していただきたいのが「頭痛ダイアリー」をつけることです。これは、あなたの頭痛の特性を客観的に記録し、医師に正確に伝えるための最も強力なツールとなります。難しく考える必要はありません。ノートや手帳、あるいはスマートフォンのアプリなどを利用して、頭痛が起きた時にいくつかの項目を記録するだけです。まず記録すべきは、「いつ」頭痛が起きたか(日付と時間)、そして「どのくらい続いたか」です。次に、「痛みの強さ」を、例えば「10段階評価」や「日常生活への支障度(我慢できる、仕事に支障あり、寝込むなど)」で記録します。そして、「どのような痛み」だったか(ズキンズキンと脈打つ、締め付けられる、など)、痛みの場所(頭の片側か両側か、こめかみ、後頭部など)も重要な情報です。さらに、頭痛以外の「随伴症状」の有無も忘れずに記録しましょう。具体的には、吐き気や嘔吐、光や音、匂いに対する過敏さなどです。また、片頭痛に特徴的な「前兆」の有無も極めて重要です。痛みが始まる前に、視界にギザギザした光が見えたり、視野の一部が欠けたり、手足がしびれたりといった症状がなかったかを記録します。加えて、頭痛の「誘因」として思い当たること(寝不足、ストレス、特定の食べ物、天候の変化など)、女性の場合は月経周期との関連もメモしておくと、診断や生活指導の大きな助けになります。服用した薬の名前と、その効果の有無も記録しておけば完璧です。このダイアリーを持参することで、あなたは自分の頭痛の全体像を自信を持って医師に伝えることができます。それは、的確な診断と治療への最短ルートを切り拓く、あなた自身にできる最善の準備なのです。
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自己判断は危険、熱とかゆみのない発疹の正しい対処
突然の発熱と、かゆみを伴わない発疹。このような症状が現れた時、多くの人はまずインターネットで情報を検索するでしょう。便利な時代になりましたが、ここには大きな落とし穴が潜んでいます。ネット上の情報は玉石混交であり、自分の症状と似たような記述を見つけると、それが自分の病気であるかのように思い込んでしまう危険性があります。しかし、大人の発熱と発疹は、その原因が非常に多岐にわたるため、専門家でなければ正確な診断は困難です。自己判断で「ただの風邪だろう」「たいしたことはない」と放置したり、誤った市販薬を使用したりすることは、症状を悪化させたり、重大な病気の見逃しに繋がったりする可能性があります。医師が診断を下す際には、患者からの情報に加え、専門的な視点で発疹を観察します。例えば、発疹の色や形(平坦か、盛り上がっているか、水ぶくれか)、大きさ、分布(全身性か、体の特定の部位に限局しているか)、出現した順番(顔からか、体からか)、粘膜(口の中や目の結膜)に症状があるか、といった点を詳細にチェックします。これらの情報は、原因を絞り込むための非常に重要な手がかりとなります。例えば、麻疹と風疹はどちらも赤い発疹が出ますが、その色合いや広がり方には特徴的な違いがあります。薬疹も原因薬によって様々なタイプの皮疹を呈します。したがって、医療機関を受診する際には、これらの情報をできるだけ正確に医師に伝えることが大切です。「いつから熱が出て、いつから発疹に気づいたか」「発疹はどこから出始めて、どのように広がったか」「かゆみや痛みはあるか」「他に喉の痛みや関節痛、目の充血などの症状はないか」「最近飲み始めた薬はないか」などを整理して伝えると、診察がスムーズに進みます。不確かな情報に振り回されず、体のサインを正確に専門家へ届けること。それが、自分自身の健康を守るための最も賢明な対処法なのです。
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その発疹は薬が原因?かゆみのない薬疹の可能性
発熱と発疹の症状で医療機関を受診する際、医師から必ずと言っていいほど尋ねられる質問があります。それは「最近、新しく飲み始めたお薬はありませんか」というものです。これは、「薬疹(やくしん)」の可能性を念頭に置いた質問です。薬疹とは、治療のために使用した医薬品が原因となって引き起こされるアレルギー反応の一種で、その症状として皮膚に発疹が現れます。薬疹と聞くと、多くの人は強いかゆみを伴うじんましんのようなものを想像するかもしれませんが、実際には多種多様な形態をとります。そして、かゆみがほとんど、あるいは全くないタイプの薬疹も決して珍しくありません。麻疹や風疹に似た赤い斑点状の発疹が全身に広がる「麻疹様紅斑型薬疹」などがその代表例です。薬疹の難しい点は、薬を飲み始めてすぐに症状が出るとは限らないことです。原因となる薬を服用し始めてから数日後、場合によっては2週間以上経過してから発症することもあります。そのため、患者さん自身が発疹と薬を結びつけて考えにくいのです。風邪をひいて抗菌薬や解熱鎮痛薬を飲み始め、数日後に熱は下がったものの、今度は発疹が出てきた、というようなケースは典型的なパターンの一つです。この場合、元の風邪による発疹なのか、それとも服用した薬による薬疹なのかを慎重に判断する必要があります。原因となりうる薬は、抗菌薬、解熱鎮痛薬、てんかんの薬、高血圧の薬など、非常に多岐にわたります。もし、発熱と発疹の症状があり、何らかの薬を服用中であれば、自己判断で服用を中止したりせず、必ず処方した医師や薬剤師に相談してください。受診の際には、現在服用中の薬はもちろん、市販薬やサプリメントも含めて、使用しているもの全てを医師に伝えることが極めて重要です。お薬手帳を持参することは、迅速で正確な診断への大きな助けとなります。